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【書評】羽田圭介著 『スクラップ・アンド・ビルド』 第153回芥川賞受賞作品!

最終更新:2017年1月19日
著者:羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』 初出:文學界2015年3月号 第153回芥川賞受賞作品 レビュー・あらすじ・感想

芥川賞4度目のノミネートで受賞した羽田圭介氏が描く、現代社会の人間関係の距離感に迫った意欲作!

主人公健斗の家に引き取られてきた認知症で足腰も弱くなり介護が必要な祖父。しかし健斗は祖父が、ひとりで寝起きをしている場面に出くわし、頭もしっかりしていて、少しずつ疑念を抱き始める…。

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スクラップ・アンド・ビルド

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最近、純文学、エンタテインメントのジャンルを問わず、社会問題でもある認知症や介護の問題を扱う作品は多い。

そのほとんどが介護を受ける側と介護する側との対立を描き、介護する側の大変さを描いたり、認知症で徘徊をしてしまう老人の放浪、行方不明を描いたりと、高齢化社会を浮き彫りにし問題提起をしている。

『スクラップ・アンド・ビルド』はいわゆる既定路線とは一線を画し、祖父と孫の対立軸という構図は外しているのだ。

主人公である健斗は前の仕事を辞め、転職活動をしており、将来に希望を持ち、自身の肉体を鍛えるため筋トレ、ジョギングを欠かさない。

片や祖父は「こんなにみんなに迷惑をかけて、じいちゃんはもう死んだ方が良か」何かにつけて「死んだ方が良か」が語尾に付く。

これだけを見ると明らかに希望と若き肉体を持った孫と迷惑をかける祖父という対立が生まれるはずなのだが、健斗は祖父に懐疑的な嫌悪感を持ちつつも、最新医学で薬漬けにされ、介護システムの発達により「生かされている」祖父に対し、人間としての尊厳・人格を否定され生きながらえている悲哀を感じる。

認知症治療や介護の場面に於いて、過剰な手助けは余計に症状を悪化させ寝たきりになりやすいため「自分で出来ることは自分でやる」「敢えて手を貸さない」という自立支援的な行動が取られる。

しかし、健斗は敢えて祖父に手を貸し祖父を弱らせ「自然で尊厳ある死」を迎えさせようとするのだが…。


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敢えて現代文学で多用されている高齢化に伴う諸問題をストーリーとして取り上げながらも、主題はそこにはない。

前述したが、一見祖父と孫の健斗の「対立軸」は厳然と存在している様に見えるが、2人は本質的に対立していない。

いわば祖父の「じいちゃんはもう死んだ方が良か」「早くお迎えが来てくれんかのう」という言葉に対し、ある意味真摯に祖父の希望に応えようとする健斗。

もちろん祖父の言葉を額面通り受け取る健斗ではないのだが「薬漬け」され「生きることを強要?され」ている祖父に対する健斗の揺れ動く価値観と心理を羽田氏は巧みに描写し「人が生きること。死ぬこと」「その表裏一体性」「人と人の関係性の本質」を読者に投げかけてくる。

同じ屋根の下で暮らす家族同士でさえ、お互いを分かりあえていないと言われる昨今、家族・親戚同士、恋人同士、友人間で意思の疎通を図ることの難しさ、一方通行になりがちな関係性と距離感を描き、現代社会で一見利他的なるものが本質は極めて利己的であるというところまでを表現しているのではないか。

羽田氏の作品の奥深さ、簡潔に見える描写とストーリーに隠れた深淵なるものを垣間見た気がするのだ。


文藝春秋 2015年 09 月号 [雑誌]

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文學界 2015年 09 月号 [雑誌]

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文芸誌「群像」2016年2月号から羽田圭介氏新連載小説「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」が始まりました!

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